■シリーズ「日本の林業はいま」
「美林萬世之不滅」の山づくりに励む
ヒノキ産地の加子母森林組合を尋ねて……
 中部木工機械記者クラブの有志数人で、岐阜県の高山市と中津川市を研修旅行した初夏の一刻を表記の見学訪問 に当てた。そして代表理事 組合長の内木篤志氏に親しく出迎えられ、いろいろ情報交換でき有益だった。その 折の氏の説明要旨などを本稿で紹介させていただこう……すなわち江戸幕藩体制下の尾張藩時代から世に名高い 木曽檜の、いわばその娘時代ともいえる「東濃桧」の産地の一つとして名を馳せ、かつ現代もなおその産出機能 を束ねている「加子母(かしも)森林組合」は、岐阜県中津川市加子母4872-5、TEL 0573-79-3333)に拠点を構え ている。
(文責=編集部)


先人の起こした山づくり理念を護り育てて
   語る人 組合長 内木篤志氏



 この森林組合を語る場合に何よりもまず挙げるべきは、『美林萬世之不滅(びりんばんせいこれをたやさず)』を 旗印に掲げた山づくりに皆が一丸となって励んでいるということ。この言葉は平成13年に創られた……何故かと いうと、林野庁がその年に「長期育成循環施業」という政策を新しく補助事業として打ち出したが、私達はさっ そくそれに呼応したわけだ。
 すなわち、それまで補助金のつかなかった50年生〜90年生ぐらいまでの森林を対象にして、強度の間伐を促進 しよう……それによって次の2代目3代目の木も植えながら確かな森林づくりを、ということでけっこう高率の補 助が設けられた。これこそ私達が永年に亘って希求した「山づくりの本質」だったので、よし加子母の理念に「 美林萬世之不滅」を掲げようとなった次第である。
 これをもう少し丁寧に説明すると加子母地内出之小路にある「神宮美林」を手本とし、いわゆる「千坪割り」 した山毎に樹齢の異なった大小のヒノキが繁り、草花や木の実が満ち溢れ、動物や小鳥や昆虫が棲み、豊かな水 を育む「美しい循環型の森林」を創出し、それを子々孫々の時代へ遺すため保護し持続させて行く意志を表した 造語なのである。


その内容は別表に示してある如く「樹齢4世代のヒノキ」が同居する山づくりで、やっと始めたばかりなのでまだ 僅かしか実現していないが、90年後には樹齢4世代同居を達成させられると信じている。つまり100年生以下、70 年生以下、40年生以下、10年生以下、と30年ぐらいずつ開きのある4世代のヒノキが、1つの山の中に順当に生え ている状況を理想の姿にしようというわけである。
 でこれはまた、30年毎に収穫ができるので森林所有者は山への愛着や関心を抱ける。が従来は祖父が苦労して木 を植える……息子がその手入れだけに追われ汲々とする……孫の代にやっと伐って売れる、という難儀な迂遠さ では山への愛着が深まる筈がない。結果として今のように山が荒れてしまう……そうではなく祖父の代、息子の 代、孫の代それぞれ30年毎に1回は収穫の喜びを味わえるようになれば、山で生きて行く希望が膨らみ頑張れるわ けだ。
 しかもその収穫時点でもし余裕があるならば、100年以上の木も何本か残そう……そうすればいつか必ず神宮美 林と同様に200年300年経った見事なヒノキの大木が所々に聳え立つであろう、という姿を想い描いて今皆で一所 懸命に山づくりに励んでいる。
 別表(単位ha)でいえば10年生のヒノキが40年生になるまでの30年間に、10年生以下を800本生やす……それを半 分に400本間伐する……400本ある40年生のヒノキが70年生になる30年間に再び半分に200本間伐する……そうすれ ば70年生から100年生の間が収穫期になるわけで、そこで1ha当たり1050万円強の粗利益を上げることができる。


納得できる材価を担保できる森林にするために


 この別表では100年生のヒノキが1本12万円で計算してあるが、現在私達が目指しているのは1年1万円の価値付 けであり、100年生なら1本100万円で売れるように育てようと考えている。これは過去にも事例があり115年生が 115万円で売れ、124年生が167万円で売れたのだ。それぞれを観察して見ると年輪は多少粗くなるが地上5〜6メートルに は枝がない、そこから上はしっかりと枝が繁っている、という状態の木を育てれば事例と同じ価値が出るだろう。
 その他にも100年生のヒノキ1束4メートル(この場合ちょうど約1立方メートルに相当した)が30万円で売れたという事例 から見て、私達が予測した1本12万円は、最低でもそれぐらいで売れる筈だという数字である。故にきちっと手入 れを施した70年生の木も1本3万4000円で対応できると算定。で結果として1ha当たり1015万円の収益も決して無謀 な予測ではない。
 以前「1ha1億円林業」を目指して邁進した頃が懐かしい。実際に昭和56年〜60年代にはそういう良い山があり 、ヒノキ神話に支えられたとはいえ良材が1立方メートル60〜70万円で売れたのだ。それに比べ現在は同じ良材で 1立方メートル20〜25万円とたったの3分の1。45年生のきちっとした枝打ち材が1立方メートル10万円前後にはな るが、悲しいかなボリュームがないので1本当たりに直すと僅か1万〜1万5000円に過ぎない。
 しかしながら私達は、きちんと手入れを施しておけば何といっても天下の東濃ヒノキだ! その辺にあるよう な立方メートル2万円未満の並みのヒノキじゃない! 伝統を受け継いだ確かな品質にはあくまで自信を以てこだ わり続けたい。以上のような「目標」を、「山林一枚(一筆約0.3ha)毎に樹齢の異なったヒノキが配置された森林 づくり、すなわち“各筆複層林”を目指して行くわけである。
(続きは本誌ご購読にて)

戻る