ウッドミックニュース

 諸事雑感
 あすなろ夢想い(22)


   『酒そして酒肴考』


 平成23年の新年、国の内外共に難しい時代だが、先ずは穏やかな年明けを迎えたいものである。予め「明けましておめでとうございます」。睦の月の意そのままに、皆が睦みて、和やかに"お屠蘇"を祝う。慌しい年の瀬に、そんな想いを込めてこの原稿を記している。
 政権が交代、国民が新しい政治に期待した1年余り、新政権は騒乱と混迷の嵐に翻弄され続けている。政治に素人の集団との言い訳は通らない。これも新しい時代への生みの苦しみである。

▲酒の命、成田の地下水の井戸
何としても乗り越えて欲しいものである。国際不況の時代もすでに長い。人類の叡智が政治も経済も、そろそろ安定成長への道を見出す、そんな年明けを願って、正月号はめでたい酒、そして酒肴について考えてみた。 お屠蘇とは、蘇という悪鬼を屠るのを意味し、古来の10種ほどの薬草を浸した酒を、年の初めを祝って飲むものである。中国では唐の時代に始まり、日本では平安の時代に宮中で邪気を払う行事として行われ、やがて庶民の間に広まったようである。現在では、酒、あるいは味醂に屠蘇散を浸して家族で飲み、長寿を祝うのが正月の一般的風潮である。明治の俳人、青木月斗の句に"盃の数をつくして年酒かな"とあるが、これは年始酒とも書き、屠蘇の後に飲む酒を云う。
 新年に限らず、毎日、無邪気に飲み続けている彼も、年酒を重ねて古希を迎える。年酒を題材にした句集に、"ともかくも 八十路めでたし 年の酒"を見て、その幸せを想像し、ニヤリ、思わず頬が緩む。"独酌の 年酒となりし 余生かな"ともある。些か情況を考えさせられ、そこまで行くには、道は未だ遥かに遠いが、それも一興の想いに至る。酒、延々と飲み続けて半世紀、正に彼の人生の友である。只、酔っ払って生きてきただけではない。酒は彼の人生に彩りを添え、人の情けを与えてくれる日々の盟友であった、そしてこれからも長い付き合いを続けたいものである。

 冷酒は身体に毒と云われる。彼は日本酒と云えば暖めるのをほぼ通例にしている。暑い夏でも燗酒を良とする。燗には日向燗(30度)、人肌燗(35度)、ぬる燗(40度)、上燗(45度)、熱燗(50度)、飛び切り燗(55度)とあるようだが、酒の香りを大事にするなら、ぬる燗が良い。晩秋から冬の寒い夜には上燗になる。暖めると云えば、酒場の隅のスタンド、初老の男がパイプを燻らしている。昔の恋人だろうか、品の良いママさんが、ブランデーグラスのコニャックを両手で温め、そっと差し出す。何かで読んだこんなワンシーンもよいが、「酒は人肌、酌は、たぼ」。たぼ(髱)とは云わずとも、路地裏に、和服に割烹着の似合う女が営む小料理屋、注文した銚子の底を拭って、左手を右の着物の袂に添えて、最初の酌をしてくれる。後は手酌で2、3杯。その間に手早く気の利いた酒肴が小皿に整えられる。こんな情景は日本酒でなければならない。一般に酒は11月の頃より、翌年の3月にかけて仕込まれる。それならば、今頃は、寒造りの酒が、始まったばかりである。成田の造り酒屋の主人である友人を思い出した。熱海の宿であった。仲間の集まりで、"燗ロック"なる奇妙な遊び飲みを披露してくれた。わざわざ熱燗の酒を注文し、それを氷に注いで飲むのである。酒飲みの馬鹿遊びと笑って見過ごしたが、以来、気になってしようがない。灘の生一本、殺菌技術の未熟な江戸の時代、酒は杉の樽に詰められ、上方から3週間程、船で江戸に運ばれる。下り酒と称され珍重された。杉の樹脂が防腐剤の役を果たす。その樹脂分は35度で気化する。それを飛ばす燗の基準が人肌燗の由来と聞いたことがある。冷で飲みたければ、それをロックにする。これなら理に適う。彼はそう理解した。酒の本に燗ロックの文字を見出して嬉しかったが、それには「日本酒は燗をして用いるものであるが、夏には、わざと軽く燗をしたものを冷やして飲むこともある。軽やかな味わいとなる」と記されているだけで、燗の理由は述べられていない。
 "冷やおろし"の酒がある。冬から早春にかけて仕込まれた新酒は、夏の間ひんやりと涼しい蔵の中に貯蔵され、熟成する。秋に外気の温度が下がった頃に、火入れをせず生で出荷する酒をいう。しぼりたての新酒の香りも良いが、その荒々しさが消えたまろやかな甘みが絶妙で、"秋あがり"とも称され、酒通にはこたえられない。想像するだけでも酔い気分になる。
 急に先の友人の顔を見て、寒造りの現場を見たい衝動に駆られた。師走の寒い日、成田の長命泉の酒造元を訪ねた……

(「あすなろ夢想い」は本誌にて毎月連載されております。続きは是非ご購読ください。)


(文責=編集部)